PERFECT DAYS~日々を大事に生きること

 昨年のカンヌ映画祭で、役所広司が主演男優賞を取った「PERFECT DAYS」が現在、公開されていますが、私のような小津安二郎作品を愛する者にとっては、ビム・ベンダース監督が、東京を舞台に、しかも主人公の名前を平山としたというだけで、鑑賞前から否が応でも期待感が高まるものですが、その期待以上の余韻を残す映画でした(平山というのは、小津の代表作である「東京物語」や「秋刀魚の味」で、笠智衆が演じる老父の役名です)。平山が、公共トイレの清掃員として、自分流のルーティンを守って、同じような毎日の繰り返しのように見えても、一日たりとも同じ日はないことを知っていて、日々を愛おしんで生きている姿を、映画は映し出していきます。カセットテープで聴くロックミュージック、古いカメラ、銭湯、地下鉄駅横の一杯飲み屋、就寝前に読む文庫本・・・それらの姿は、2020年代の日本社会にあっては、ちょっと浮世離れした姿に見えるかもしれません。しかし、生き物としての人の生きる姿としては、より本質的な姿を描いているようにも私には思えます。「PERFECT DAYS」は、ストーリーや人物構成は全く異なっていますが、その作風や味わいは、ベンダースが敬愛する小津の、70年後の「東京物語」(1953年作)ともいえる作品とも言えるのではないでしょうか。
 「この世界は、ほんとうはたくさんの世界がある。僕(平山のこと)のいる世界は、ニコ(平山の姪)のママのいる世界とは違う」「今度は今度、今は今」「ずっと、このままで居れたらいいのに」・・・作中でポツリポツリと吐かれる言葉には、有限の時と空間の中で生きる私たちのありようを静かに提示してくれています。
 ルー・リード、ベルベット・アンダーグラウンド、パティ・スミス、ローリングストーンズ、キンクス、ニーナ・シモンといった選曲、平山の姪のニコという名前(バナナジャケットで有名な「ベルベット・アンダーグラウンド&ニコ」から名付けたものと思われます)など、またしても随所に光るベンダースのセンスの良さにもうならされます。

                                                                       森