関係の中でことばは生まれる

 前々回のブログで取り上げた浜田寿美男さんの『「発達」を問う』の中で、言葉(の獲得)に関する一般的な思い込みに対して、明確に否定した記述が見られます。「言葉の発達は、それを外形的に見れば、喃語的な発生から、何かを指し示す初語が生まれ、その語彙が徐々に広がり、あるところから爆発的に語彙が増加し」て、というように、個人が言語能力をまず身につけて、それから対人的コミュニケーションが成り立つかのような議論がなされやすいが(浜田さんは、その代表例を発達心理学の大家と言われているピアジェの名前を挙げています)、「言葉に代表される記号機能は、ほんらい、誰かが誰かに対して音声や文字でもってなにかを表現されるものである。そこには人との関係と物との関係が複雑に絡み合っている。」「先に言葉以前のレベルで人と人との関係の場、コミュニケーションの場が原初的なかたちで成り立っていて、その場のうえでたがいが物を一緒に体験し、声をたがいに交わし合う。それによってこの二つが重なり合い、結びついて、言葉が生まれてくる」「つまり、言葉以前にすでに人どうしが何らかのかたちで通じ合っていて、だからこそ言葉が生まれてくるのであって、その逆ではない。」と明確に、まず関係ありき、と主張されています(p.55~56)。長年、子どもたちの成長に接してきていて、浜田さんの言われる通りと実感するところです。
 人や物との関係性を抜きにして、言葉だけを教えよう・獲得させようということの出発点(或いは視点や考え方と言ってもいいのかもしれません)のおかしさに私たちはもっと気づかないといけないのだと思います。だから、まずその子どもが、他者や物との豊かな関係性を築いていくことこそを大事にしていきたいと思います。その結果として、言葉や文字は獲得されていくのだということを肝に銘じたいものです。

                                                                     森