新しい言葉ができることの意味(意義)と落とし穴
前にも一度、取り上げた大阪出身の作家・柴崎友香さんが、昨年(2024年)、『あらゆることは今起こる』という本を出しています。自身が40代になってから発達障害の診断を受けた経験を言葉にしたいと思って書かれたそうです。世間的には、発達障害で「できない」ことばかり取り上げられがちだけど、柴崎さん自身は、「できない」ことで困ってしまうが、「困るときもあるし困らないときもある」「「できない」のがすごくつらい自分と、そんなにできないと思わなくてもいいんちゃうという自分がいて」と言っています。柴崎さんは、大人になってからADHD的な要素があるのは確実だと思ってらして、加えてASD要素も多少あると思ってた(P.22)そうですが、自身の特徴としては、「多動」が頭の中で起きている(P.14)と分析されています。一度にいろんなこと・いろんな思いが頭の中を駆け巡っているそうで、でもそれは傍から見たら、なにもしないでぼーっとしているように見られがちと言っています。もちろんこれは、柴崎さんの特性であって、ADHDの人がみんなそうだということではないということも繰り返し柴崎さんは言われています。ただ、私たちがADHDと言われる人やその特性ということを捉える時の一つの手掛かりにはなる話ではあります。
この本で改めて示唆を受けたことのうち、とりわけ私たちが心しないといけないのは、言葉にされた(できた)ことでのプラスとマイナスを両方見ないといけないということだと思います。「本人が困っていて、それに対してなにかするため、考えるために「発達障害」という概念や言葉ができて?発見されて?そしてそれがこの数年すごく使われるようになったのはそれだけ困難を抱えている人が多くて、「発達障害」に関して今までに調べられたり考えられたりしてきたことから助けを見つける人が多いからだと思う。/しかしすぐに、「空気が読めないからあの人はアスペ」だとか「発達障害は仕事ができないから入社させない」(そういう企業が使うテストがあるらしい)というように、排除の言葉、揶揄の言葉として使われるようになる。そうして排除の言葉ばかりに触れた人は、「発達障害なんて昔は「変わった子」で済まされていたんだから、名づけて区別するのがよくない」みたいに「困っている人の困っていること」をないことにするようなことを言ってしまったりする。」(P.209~210)という記述が、概念・言葉にできたことの意味・意義とその逆の落とし穴の両面を端的に語っています。柴崎さんは、この記述が含まれる章の見出しを「奪われ、すり替えられてしまう言葉」としています。
私たちが日々、接する人や事柄の理解を得ようとするときの基本的な姿勢、スタンスについても教えられることの多い本でした。なお、この柴崎さんの著作を含め、医学書院はシリーズケアをひらく、と称する魅力的な本をいくつも出しています。
森