軽度知的障害がある人への支援について

 毎年、2月の半ばごろに行われるびわこ学園医療福祉センター野洲(旧第2びわこ学園)が主催する、精神科医の本谷研司さんによる「知的障害がある人が持つさまざまな事情について」という公開講座に、今年も参加させてもらいました。今年で18回目という講座に私は、確か5~6年前から参加させてもらっていますが、いつも部屋いっぱいになる参加者が、今年は軽度知的障害者に焦点を当てたテーマということ(びわこ学園は、重症心身障害児施設)などのせいか、40~50人の参加者で、例年に比べると少し少ない感じでした。ですが、今回も気づかされることの多いお話で、支援に携わる者として大切に心しなければいけないことをいくつも教えられたと思います。
 そもそも軽度知的障害という時、どこからが知的障害があって、どこからが定型発達というのか、本来、明確な線を引くことは難しい、でも制度的に何らかの支援を受けたいという時に、どこかで線を引かなければいけないので、支援を受けられる人とそうでない人に分けられてしまうことがどうしても出てきてしまいます。それが、今回の講座のタイトル”The forgotten generation”(忘れられた世代)ということにもつながってもいるかと思います。アメリカ合州国では、ある時期、知的障害があるかどうかのラインを、IQ85としていたのを70に変えた結果、双子の兄弟で一人はIQ68で支援を受け続けることができたが、もう一人はIQ72で線引きが変わった時からそれまで受けてきた支援をその後受けられなくなった、結果成人後の生活が二人の間でずいぶん違いが生じてしまった、という大統領委員会報告が出てきているということでした。これは、日本でもそうで、私が関わったケースでも、例えば移動支援(障害者総合支援法による)は、障害者手帳がない人は対象外で、療育手帳を所持していた時は利用できたのに、判定更新期が来て、その時の発達検査を受けた数値によって療育非該当となった結果、利用できなくなるということが現実にあります。このようなことに出くわすと私は釈然としない気持ちにどうしてもかられます。
 政策的にも、例えば医療的ケアが必要な人、強度行動障害があると言われている人等どうしても重度の人に支援を手厚くしていく方向に向きがちで(2年前の放課後等デイサービスの制度改正による指標(区分)該当や加算強度行動障害の新設もそういう方向にあると言えるでしょう)、結果、軽度の人やボーダーラインにある人に支援が届きにくくなることになってしまいます。これに関連することとして、「不適切な過剰な支援が行われれるケースもあるかもしれないが、…(中略)…多くのケースでは、やはり我々(注:支援者)の理解が足らず、支援が届いていない(的を得ていない)のだと思う」と本谷さんは述べられています。
 さらに、支援のレベルの見極めとして、「・1回のアドバイスで足りる人、・繰り返し(定期的に)アドバイスする必要がある人、・口で言うだけではだめで、一度は一緒にやることが必要な人、・何度か繰り返し一緒にすることが必要な人…・「支援ゼロ」にこだわらない」、というような具体的な支援の仕方も本谷さんのお話の中にあり、私たちが支援に取り組む中で心がける、また実際に行っていくヒントをいっぱいいただいたと思います。

 私は20代の前半の一時期、第2びわこ学園でアルバイトしていたことがあり、当時とは場所も、もちろん建物も変わってしまっていますが、私にとっては重度知的障害者と関わることになって原点のようなところがあり、今でも野洲を訪れると駆け出しのころの空気を思い返します。そんなこんなで、今後も本谷さんのお話が続く限り毎年、公開講座に参加させてもらいたいと思っています。

                             森