福祉という仕事とは?
『星の王子さま』で有名なサンテグジュペリは、飛行機が誕生して間もないころからの操縦士で、ヨーロッパから中南米やアフリカへの郵便飛行にも何度も行っていたようです。そんなわけで飛行経験に基づく著作がいくつかあって、そのうちの一つに『人間の土地』という本があります。(ちなみに『星の王子さま』も、遭難してアフリカの未知の砂漠に軟着陸した、という設定から始まっています。)
その本の冒頭にこんな一節があります。
ぼくは、アルゼンチンにおける自分の最初の夜間飛行の晩の景観を、いま目の
あたりに見る心地がする。それは、星かげのように、平野のそこここに、ともし
びばかりが輝く暗夜だった。
あのともしびの一つ一つは、見わたすかぎり一面の闇の大海原の中にも、なお
人間の心という奇蹟が存在することを示していた。あの一軒では、読書したり、
思索したり、打明け話をしたり、この一軒では、空間の計測を試みたり、アンド
ロメダの星雲に関する計算に没頭したりしているかもしれなかった。また、かし
この家で、人は愛しているかもしれなかった。それぞれの糧を求めて、それらの
ともしびは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っていた。中には、詩人の、教
師の、大工さんのともしびと思しい、いともつつましやかなのも認められた。し
かしまた他方、これらの生きた星々のあいだにまじって、閉ざされた窓々、消え
た星々、眠る人々がなんとおびただしく存在することだろう……。
努めなければならないのは、自分を完成することだ。試みなければならないの
は、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っているあのともしびたちと、心を通じ
あうことだ。
-堀口大學訳版・新潮文庫 p.7~8
飛行機に乗って夜空から見下ろされる無数の、あるいはいくつかの灯を見たときに抱く人々の営みに対するいとおしさを、この一節は想像力豊かに、そして詩的に語っています。しかも、今から100年近く前の時代に、おそらくサンテグジュペリは、たったひとりで小さな飛行機を操縦しながら(遭難の不安もあった時代に)、こんなことを思っていたのでした。
私たちの社会福祉という仕事は、このサンテグジュペリが抱いた思いあるいは感性を大事にして、行っていく仕事だと私は思っています。「生きた星々のあいだにまじって、閉ざされた窓々、消えた星々、眠る人々」にも思いをいたし、どうすれば一人一人が幸せに生きることができるのか、ということに苦心する仕事だと思っています。
森