わたしの#stayhome日記(今日マチ子)に寄せて
漫画家の今日マチ子さん(年配者あるいは古い日本映画通であれば、ご存知の女優・京マチ子から名付けられたであろうペンネームですが)が、2020年の緊急事態宣言を受けて、自身のインスタグラムで、毎日のように描き続けた「わたしの#stayhomu日記」が単行本化され、2021年5月に『Distance』、翌2022年5月に『Essential』、そして今年5月に、シリーズ完結編となる『FromTokyo』が刊行されました。私は、去年、『Essential』が出たときに友人から教えてもらってから手にしました。確か2015年ごろに、京都国際マンガミュージアムで岡崎京子(1980年代後半~1990年代にかけて幅広い媒体で活躍した伝説的な漫画家)について語るトークショーで、初めて今日マチ子さんの存在を知った私ですが、日々の他愛もない一片を描き綴った「センネン画報」や、戦争を題材に扱った『COCOON』など繊細なタッチの画風と日常性を起点にする視座に魅かれて、愛読するようになりました。
この3年間のコロナ禍の日常で、今まで当たり前のようにできていたことができなくなり、心身共に自らもブレーキをかけることを身に着けてしまった長い時間をくぐって、私たちは何を得て、何を失ったのでしょうか?日々の仕事や私生活に追われて、ゆっくり振り返ることもなく過ぎていくところを、やはりしっかり振り返らなくては、と時々、頭をよぎります。そんな時に、今日マチ子さんのこの3冊の絵日記を繰り返し私は手に取ろうと思います。私たち大人に比べて、子どもたちに流れる時間はずっと長かったはずで、取り返すことのできない3年が経ち、失ったものの大きさを思わずにはいられません(たとえ、それが好き勝手する人類への自然からのしっぺ返しだったにせよ)。
今日さんのこの3冊は、月ごとに章が区切られ、その各扉に、その時、日本でまた世界でどんなことがあったかが年表にように記され、それもあることで、その時、私(たち)はどうしていたのかたとえわずかな記憶であったとしても辿り直すことができます。シリーズ最後の『FromTokyo』の解説で、作家の角田光代さんが、「この作品集をめくることは、その大勢(筆者注:全世界の人たち)と語り合うことだ。二〇二〇年の、二〇二一年の、二〇二二年のあのとき、あなたはどこにいて、何を思い、何をしていた?」「これからもっともっと日々が過ぎ、私たちはいつか忘れてしまう。二〇二〇年の異様さも、二〇二一年の慣れも、二〇二二年の倦怠も、私たちの重要な瞬間も、きっと忘れてしまう。」「だから私は今日マチ子さんのこの三冊を、ずっと持っていようと思う。あのとき何をしていたっけ。ページをめくれば、そこに私がいるし、私以外の全員がいる。ひとしくおなじ時間の中にいる。この作品集は、だから私にとって、居場所みたいなものになるはずだ。」
私たちを包む状況に翻弄されるとしても、反省的に今を視ようとすることで、何を失い、何を得て、そして何を大切にしたいのか・大切にしていくのかを思い抱えながら、日々を歩んでいきたいと思っています。その意味で、角田さん同様に私も折あれば、この作品集を読み返そうと思います。
森