「少年よ大志を抱け、この老人のごとく」

現在、映画公開されている「Dr.コトー診療所」、公開されて早速、観に行ってきました。村だった志木那島が、平成の町村合併で市の一部になったり、少子高齢化と過疎によって合理化を図るべく市の拠点病院への統合の動きなど、おそらく現在、地方で少なからず抱えている問題も背景にありながら、それでも島の人たちの人間関係・絆が物語の中心に据えられていることに変わりはありません。個人的には、1980年代~1990年代前半の小劇場ブームの主役の一つ・第三舞台の看板役者の一人であった筧利夫や、その第三舞台の会社・サードステージの舞台「ビューティフル・サンデー」で鮮烈な印象を残して以来注目し続けている堺雅人の佇まいにも心惹かれる味わいがありました。

ところで、映画公開に先立って、2003年の第1シリーズから順に、テレビで再放送されていたのを録画撮りして順次、観ていってたのですが、リアルタイムの時には気に留めていなかったか、忘れてしまっているエピソードがいくつかありました。その一つに、コトー先生が、たけひろ少年に、札幌農学校に赴任していたクラーク先生が、母国に帰る前に生徒たちに残した有名なメッセージ「少年よ大志を抱け」には続きがあって、コトーがたけひろ少年に上げた辞書の扉に書かれたその英語のメッセージについて語るというくだりがあります。

「少年よ大志を抱け、この老人のごとく。それは、金銭や私欲のためではなく、名声というはかない(空虚な)志のためでもなく、人として何をなすべきか、その道を全うするために(そのすべてを達成するために)大志を抱け」(引用は、劇中のセリフとインターネットで調べた英語原文の私訳によります)

この言葉は、当時(1870年代)の富国強兵という政治方針や立身出世という価値観とは明らかに異なる価値観あるいは倫理と言えるでしょう。その明治時代の名言を、コトーはたけひろ少年に話し、今も自分は人として何をなすべきかずっと考えている、というような言葉を添えます。「Dr.コトー診療所」には、こんな大切な私たちに思考をいざなうエピソードがあったのだという再発見がありました。そしてこの言葉は、医療従事者のみならず、福祉・教育という対人援助と呼ばれる分野で仕事をしている私たちもずっと抱えておくべき深い問いだと私には思えます。