「さかなのこ」

魚類博士のさかなクンの自叙伝の原作を映像化した「さかなのこ」は、発達障害がある子どもの保護者・家族には、ぜひ観てほしい作品です。魚のことになると、時間や状況に関わりなく夢中になってしまい、それがゆえに時には波紋を呼び起こし、警察沙汰になってしまうことすらあるけれど、母親だけはいつも三―坊(主人公・さかなクンの少年青年時代)の徹底した味方になってくれます。魚のこと以外では美術と音楽はいい成績だけれど、ほかの教科はダメで、進路相談でも担任に「勉強も頑張らないと」、と言われるのを、今の彼でいいと母は肯定します。好きこそものの上手なれ、と言いますが、ミー坊は同級生たちと一緒になって、とても難しいと言われるカブトガニの人工ふ化に成功し、新聞にも取り上げられる、ということもやってのけてしまいます(これは、作り話ではなく、実際にあったことのようです)。大人になって、同級生だった女性と再会して、住むところを失くしたそのシングルマザーの母子が居候するのを受け入れますが、その同級生が、「こんなの普通じゃないよね?」とつぶやくのを、「普通って何?」と力まずにさらっと返す姿は、爽快ですらあります。

その主人公・三―坊役を、設定を男の子のまま、のん(旧・能年玲奈)が演じていて、彼女だからこその透明さ・すがすがしさが、より三―坊の魅力を引きだたせているのだとは思いますが、テレビで視られるさかなクン自身を見ていても。あの独特な風貌や人柄は、こんな人がいていいな、と思わされます(少なくとも私はそうです)。何ができないか、何がダメなのかということばかりに目を向けるのではなく、夢中になれることがあればいいし、そのことを極めようとするのは素晴らしいことだ、と見る(思える)かどうかは、とても大事なポイントであるように思います。「普通」「人並み」「平均」、と普段、ほぼ無反省に使っている言葉や概念も、突き詰めていけば、じゃあどこが人並みで、どうであれば普通と言えるのか、と問うと、意外とあやふやなもので、時代や社会によってたやすく変わってしまうことに思い至らないでしょうか?そのような視点に立ってこの映画を観ると、発達障害と言われる人への見方もおのずと変わっていくように思います。